「テレビがついていると、話しかけても会話が伝わりにくい」
「作業を始めても、周囲の音や人の動きに気を取られてしまう」
「料理中に別の用事を始めると、元の作業へ戻れない」
「歩きながら会話をすると、足元への注意がそれてしまう」
日常生活でこのような様子がみられるときは、注意機能が関係している可能性があります。
ただし、財布の置き忘れや火の消し忘れなどの失敗を、注意機能だけで説明することはできません。記憶、遂行機能、視覚、身体機能、体調、薬の影響、周囲の環境など、複数の要因が重なっている場合があります。
この記事では、現役の作業療法士が、注意機能の4つの働きと、日常生活でみられる困りごと、本人に合わせた支援の工夫を分かりやすく解説します。
大切なお知らせ
急にぼんやりするようになった、反応が鈍い、会話が成立しにくい、片側の手足が動かしにくい、言葉が出にくいなどの変化がみられる場合は、緊急性のある病気も考えられます。速やかに医療機関へ相談してください。
注意機能とは
注意機能とは、周囲にあるさまざまな情報の中から必要なものへ意識を向け、一定時間保ち、状況に応じて注意の向け先を変えたり、複数の対象へ注意を配ったりする働きです。
国立障害者リハビリテーションセンターの資料では、注意障害の特性として、次のような働きの難しさが整理されています。
- 必要な対象へ注意を向ける「選択性」
- 注意を長時間保つ「持続性」
- 状況に応じて注意の対象を切り替える「転換性」
- 複数の対象へ同時に注意を払う「分配性」
これらは、注意機能を理解しやすくするための分類です。実際の生活では、複数の働きが同時に使われています。
参考:国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害者の復職支援とアセスメント」
また、注意障害は脳卒中や外傷性脳損傷などによる高次脳機能障害の一つとしてみられることがあります。高次脳機能障害は外見から分かりにくく、日常生活や社会生活に困難を生じることがあります。
参考:国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害診断基準」
参考:厚生労働省「高次脳機能障害者支援法関係通知について」
ただし、集中できない、忘れ物が増えたといった様子だけで、注意障害と判断することはできません。
注意機能の4つの働き
1.選択性注意|必要な情報を選ぶ働き
選択性注意とは、複数の音や物、人の動きなどがある中から、今必要な情報へ注意を向ける働きです。
例えば、にぎやかな場所で相手の話を聞くときは、周囲の会話やテレビの音ではなく、話している相手の声へ注意を向けます。
日常生活で使われる場面
- スーパーの商品棚から必要な商品を探す
- 駅や病院で目的の案内表示を見つける
- テレビがついている部屋で相手の話を聞く
- 食卓に複数のお皿が並ぶ中から食べたい料理を選ぶ
- 人の出入りがある場所で作業を続ける
困りごとの例
- 周囲が騒がしいと会話を聞き取りにくい
- 人や物が多い場所では目的の物を見つけにくい
- テレビや周囲の動きへ何度も注意がそれる
- テーブル上に物が多いと、必要な食器が分からない
- 周囲の刺激が増えると作業ミスが多くなる
ただし、商品を見つけられない場合には、視力・視野・記憶などが関係している可能性もあります。
支援の工夫
- テレビやラジオの音量を下げて反応を見る
- 一度に見える物の数を減らす
- 必要な物を目立つ位置へ置く
- 相手の正面へ入り、名前を呼んでから話す
- 長い説明ではなく、必要な情報を短く伝える
静かな環境が必ず適しているとは限りません。音楽や会話が安心につながる方もいるため、本人の反応を見ながら調整します。
2.持続性注意|注意を保ち続ける働き
持続性注意とは、一つの作業や対象へ一定時間、注意を向け続ける働きです。
読書、食事、書類の確認、リハビリ課題などを続けるときに使われます。
日常生活で使われる場面
- 食事を最後まで続ける
- 本や新聞を一定時間読む
- 洗濯物を畳む
- 書類や予定表を確認する
- 料理の様子を見ながら加熱を続ける
困りごとの例
- 作業を始めても、短時間で手が止まる
- 食事の途中でぼんやりする
- 読んでいた内容が途中から分からなくなる
- 長時間になるとミスが増える
- 作業の後半になると疲れやすい
料理中に火を消し忘れる場合もありますが、原因は持続性注意だけとは限りません。記憶、手順を組み立てる遂行機能、来客や電話による中断、コンロの操作性なども確認する必要があります。
支援の工夫
- 疲れる前に休憩を入れる
- 作業時間を短く区切る
- 一度に取り組む量を減らす
- 静かで落ち着ける場所を選ぶ
- 作業の終了時刻や終了条件を分かりやすくする
- 食事や作業の前半と後半の違いを観察する
「最後まで続けること」だけを求めず、本人が無理なく取り組める時間や量を探します。
3.転換性注意|注意の向け先を切り替える働き
転換性注意とは、一つの作業から別の作業へ注意を移し、必要に応じて元の作業へ戻る働きです。
例えば、料理中に電話へ対応し、電話が終わったあとに料理を再開する場面で使われます。
日常生活で使われる場面
- 電話対応後に元の作業へ戻る
- 洗濯機が止まったら、料理を中断して洗濯物を取り出す
- 会話を終えて食事を再開する
- レジで支払いを終え、財布をしまって袋詰めへ移る
- 複数の手順を順番に進める
困りごとの例
- 電話や来客のあと、何をしていたか分からなくなる
- 別の用事を始めたまま、元の作業へ戻れない
- 会話後に食事を再開できない
- 支払い後、財布をしまう手順が抜ける
- 作業の切り替えに時間がかかる
財布の置き忘れには、注意の切り替えだけでなく、記憶や行動手順、焦り、財布を置く場所なども影響します。
支援の工夫
- 作業を中断する前に、現在の状態をメモする
- 「電話が終わったら鍋を確認する」など、次の行動を決める
- 作業中の物を見える位置に残す
- 終了した作業と残っている作業をチェック表で分ける
- 一度に複数の用事を依頼しない
- 作業の途中で急に話しかける回数を減らす
火や刃物などを使う作業では、本人の注意だけに頼らず、見守りや安全機能のある機器の利用も検討します。
4.分配性注意|複数の対象へ注意を配る働き
分配性注意とは、同時に複数の対象や作業へ注意を向ける働きです。
一般に「ながら作業」と呼ばれる場面で使われます。
日常生活で使われる場面
- 歩きながら周囲の安全を確認する
- 会話をしながら食事をする
- 料理をしながら複数の鍋の状態を見る
- 車いすを操作しながら周囲の人や障害物を確認する
- 洗濯機を動かしながら別の家事を行う
困りごとの例
- 歩きながら会話をすると足が止まる
- 会話中に段差や障害物を見落とす
- 複数の料理を同時に作ると、一方を忘れる
- 食事中に話しかけられると食べる手が止まる
- 二つの指示を同時に受けると混乱する
厚生労働省の情報でも、注意障害では集中力が続きにくい、ミスが増える、二つのことを同時に行うと混乱する、といった特徴が示されています。
支援の工夫
- 安全が必要な場面では「ながら作業」を減らす
- 歩行中の会話は立ち止まって行う
- 料理は一品ずつ進める
- 指示は一つずつ伝える
- 作業が終わってから次の作業へ移る
- 複数の鍋や家電を同時に使わない
分配性注意を「鍛えて何でも同時にできるようにする」ことより、同時に行う必要のない環境を作る方が安全な場合があります。
日常生活の失敗を注意機能だけで判断しない
「財布を忘れた」「火を消し忘れた」「約束を忘れた」といった一つの行動だけでは、どの認知機能が関係しているか判断できません。
国立障害者リハビリテーションセンターも、約束に間に合わないという同じ行動でも、約束自体を忘れた、時間を忘れた、別のことへ気を取られた、道を間違えたなど、異なる背景があり得ると説明しています。
参考:国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害の評価」
例えば財布の置き忘れには、次のような要因が考えられます。
- 周囲の刺激へ注意がそれた
- 袋詰めへ注意を切り替える途中で手順が抜けた
- 財布を置いたことを覚えていなかった
- 財布をしまう場所が毎回異なっていた
- レジが混雑して焦っていた
- 手荷物が多く、財布をしまいにくかった
原因を一つに決めつけず、失敗が起きた場面を具体的に振り返ることが大切です。
注意機能が関係する可能性がある困りごと
会話が伝わりにくい
テレビ、周囲の会話、人の動きなどへ注意がそれると、相手の話を聞き続けにくくなる場合があります。
一方で、聴力低下、補聴器の不具合、言語理解の問題、疲労なども確認が必要です。
食事の手が止まる
テレビや会話へ注意が向いたあと、食事へ戻れない場合があります。
ただし、食欲、口腔・嚥下機能、姿勢、食具、眠気なども食事の進みに影響します。
詳しい対策は、次の記事で解説しています。
車いすのブレーキをかけ忘れる
注意の向け方や行動手順が関係する可能性があります。
しかし、ブレーキの操作性、身体機能、見え方、車いすの適合、焦りなども確認する必要があります。
料理中のミスが増える
複数の調理工程を同時に行うと混乱したり、中断後に元の作業へ戻れなかったりする場合があります。
火や刃物を使う作業では、本人の訓練だけで解決しようとせず、家電の安全機能、見守り、調理方法の変更などを検討します。
外出時に周囲を確認しにくい
歩行中に会話や看板へ注意が向くと、段差、信号、車などへの確認が不十分になる場合があります。
安全に不安がある場合は、医療・介護の専門職へ相談し、一人での外出方法を見直します。
注意機能の低下が疑われるときの支援方法
1.不要な刺激を減らす
テレビ、ラジオ、人の出入り、机上の物など、現在の作業に必要のない刺激を一度減らします。
すべてを静かにするのではなく、本人がどの刺激に気を取られているかを観察します。
2.一度に一つずつ伝える
「立って、財布を持って、玄関へ行ってください」と複数の指示をまとめるのではなく、一つずつ伝えます。
「財布を持ちましょう」
本人が行動したことを確認してから、次の指示へ進みます。
3.作業を小さな手順へ分ける
料理であれば、次のように分けます。
- 材料を準備する
- 切る
- 火をつける
- 加熱する
- 火を消す
- コンロを確認する
ただし、手順表を貼るだけで安全が保証されるわけではありません。本人が見て理解し、実際の場面で使えるかを確認します。
4.メモやチェック表を活用する
- 終了した作業へチェックを入れる
- 財布や鍵の置き場所を決める
- 予定を一か所へまとめる
- スマートフォンのアラームを使う
- 写真や図を使った手順表を用意する
手順支援やスケジュール管理などの支援機器は、高次脳機能障害者の生活支援でも活用されています。
参考:国立障害者リハビリテーションセンター「支援機器が拓く新たな可能性」
5.疲労や体調を確認する
注意機能は、疲れ、睡眠不足、痛み、発熱、薬の影響、気分の落ち込みなどによっても変化します。
「できる日」と「できない日」がある場合は、時間帯や体調との関係を記録してみましょう。
6.できる部分と支援が必要な部分を分ける
すべてを本人だけで行うことを目指す必要はありません。
例えば料理では、
- 材料を切る部分は本人が行う
- 火の管理は家族が行う
- 電子レンジ調理へ変更する
といった役割分担も選択肢です。
完璧に一人で行うことより、本人の力を生かしながら、安全に生活を続けられる方法を考えます。
🌿 作業療法士からのポイント
注意機能の問題があると、「何度言っても聞いていない」「やる気がない」「危険性を理解していない」と受け取られることがあります。
しかし、本人は気を付けていないのではなく、周囲の刺激を整理できない、注意を保てない、中断後に元の作業へ戻れない、複数のことを同時に処理できない状態かもしれません。
注意力だけを高めようとする前に、次の点を観察してみましょう。
- どの場所で失敗が起こるか
- 周囲にどのような音や物があるか
- 作業のどの段階で止まるか
- 一人と複数人の場面で違いがあるか
- 疲れている時間帯ではないか
- 短い声かけで再開できるか
- メモや手順表を使えるか
本人へ「もっと注意して」と繰り返すだけでなく、注意し続けなくても安全に行動しやすい環境を整えることが重要です。
脳トレや抹消課題の位置付け
抹消課題は、複数の数字や文字の中から指定された対象を探す教材です。
注意を向ける活動や、本人の取り組み方を観察する機会として活用できます。
ただし、抹消課題へ取り組めば、財布の置き忘れ、火の消し忘れ、転倒などを直接予防できるとは限りません。机上の教材と実際の生活場面では、環境や求められる動作が異なります。
教材は、次の位置付けで無理なく活用します。
- 余暇活動の一つ
- 注意を向ける練習の一つ
- 本人が取り組みやすい課題を知る機会
- 疲労やミスの傾向を観察する機会
注意を向ける練習に活用できる教材
当サイトでは、数字や文字などから指定された対象を探す抹消課題を無料で公開しています。
本教材は活動や学習の選択肢の一つです。特定の症状や日常生活上の事故を改善・予防する効果を保証するものではありません。
専門職へ相談した方がよい目安
次のような場合は、本人や家族だけで対応せず、医療・介護の専門職へ相談してください。
- 注意散漫やミスによって転倒・火傷などを繰り返している
- 以前より急にぼんやりするようになった
- 同じ失敗が短期間に何度も起きる
- 一人での調理や外出に危険がある
- 片側の物や料理を繰り返し見落とす
- 会話や指示を理解できないことが増えた
- 複数のことを行うと強く混乱する
- 家族や介護職だけでは安全を確保できない
- 本人の生活に合った対策が分からない
相談先としては、主治医、神経内科・脳神経外科、作業療法士、言語聴覚士、看護師、ケアマネジャー、地域包括支援センター、高次脳機能障害支援拠点などが考えられます。
国立障害者リハビリテーションセンターでは、注意障害を含む高次脳機能障害について、生活歴、行動観察、神経心理検査などを組み合わせて評価する重要性を示しています。
参考:国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害の評価」
まとめ
注意機能には、主に次の4つの働きがあります。
- 選択性注意
必要な情報へ注意を向ける働き - 持続性注意
一つのことへ注意を保ち続ける働き - 転換性注意
状況に応じて注意の向け先を変える働き - 分配性注意
複数の対象へ注意を配る働き
注意機能がうまく働かないと、会話、食事、料理、買い物、移動など、さまざまな生活場面で困りごとが生じる場合があります。
ただし、日常生活の失敗を注意機能だけで判断することはできません。記憶、遂行機能、視覚、身体機能、体調、環境なども含めて確認する必要があります。
本人へ完璧な注意を求めるのではなく、ご本人の特徴に合わせて、失敗や事故につながりにくい環境・手順・支援方法を整えることが大切です。
関連する教材・記事




参考資料
・国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害者の復職支援とアセスメント」
・国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害診断基準」
・国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害の評価」
・厚生労働省「高次脳機能障害者支援法関係通知について」
・国立障害者リハビリテーションセンター「支援機器が拓く新たな可能性」
・国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害の標準的リハビリテーションプログラム」
・厚生労働省「精神障害(精神疾患)の特性―高次脳機能障害」


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