高齢者が食べやすい食事環境とは?テーブル周り・姿勢・食器を整えるポイント

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「食事中に何度も手が止まる」

「お皿へ手が届きにくく、食べるのに時間がかかっている」

「テレビや周囲の動きが気になり、食事が進まない」

高齢になると、身体機能や見え方、認知機能、口腔・嚥下機能などの変化により、これまでの食事環境が合わなくなることがあります。

そのようなときは、本人へ何度も声をかけるだけでなく、テーブル上の物、食器の位置、座る姿勢、照明、周囲の音などを見直すことが大切です。

この記事では、現役の作業療法士が、高齢者が食事をしやすい環境を整えるポイントを解説します。

大切なお知らせ

食事中のむせ込み、湿った声、口の中へのため込み、発熱、体重減少、食事量の急な低下などがある場合は、環境だけの問題とは限りません。

医師、歯科医師、看護師、言語聴覚士、管理栄養士、作業療法士などへ相談してください。


目次

食事環境を整える前に確認したいこと

食事が進まないときは、テーブル周りの環境だけが原因とは限りません。

まず、次のような変化がないか確認します。

  • 食欲が低下していないか
  • 歯や入れ歯、口の中に痛みがないか
  • 噛みにくさや飲み込みにくさがないか
  • 箸やスプーンを持ちにくくないか
  • 姿勢を保つことに疲れていないか
  • 食事中に強い眠気がないか
  • 食事の量や形態が本人に合っているか
  • 薬の影響や体調不良がないか
  • 食べ物を認識できているか

高齢者の食欲低下には、嚥下機能、味やにおいの感じ方、活動量、消化機能、疾患など、複数の要因が関係します。

参考:国立長寿医療研究センター「高齢者の食欲低下について

環境を整えても食事量が減ったままの場合や、急に様子が変わった場合は、専門職へ相談しましょう。


高齢者にとって食事環境が大切な理由

食事に必要な物へ注意を向けやすくなる

テーブル上に新聞、リモコン、薬袋、調味料などが多く置かれていると、食事以外の物へ視線や注意が向くことがあります。

特に認知機能が低下している方では、複数の物から必要な物を選ぶことが難しい場合があります。

食事に必要な物を分かりやすく配置することは、本人が次の動作を選びやすくする環境調整の一つです。認知症ケアの資料でも、席や食事メンバー、音、周囲の環境などを本人に合わせて調整する考え方が示されています。

参考:認知症介護情報ネットワーク(DCnet)「食事場面における認知症ケアの考え方
参考:認知症介護情報ネットワーク(DCnet)「食事・入浴・排泄編

楽な姿勢で食べやすくなる

椅子や車いすの高さ、足の位置、テーブルまでの距離が合っていないと、食器へ手を伸ばすたびに身体へ負担がかかります。

適切なシーティングは、単に姿勢を整えるだけでなく、本人が快適に座り、日常生活動作へ参加しやすくするための個別的な支援です。

参考:厚生労働省「高齢者の適切なケアと シーティングに関する手引き
参考:厚生労働省「介護現場における適切なシーティングの実施に係る 事例及び研修に関する調査研究事業

ただし、全員を同じ姿勢に合わせるのではなく、身体機能、拘縮、痛み、麻痺、嚥下状態などに応じて調整する必要があります。

食事による疲れを減らしやすくなる

食器が遠い、テーブルが高い、足が安定しないなどの状態では、一口食べるたびに余分な力が必要になります。

食事の後半に姿勢が崩れたり、手が止まったりする場合は、集中力だけでなく、姿勢保持による疲労も考えましょう。


テーブル上を整えるポイント

食事に必要な物だけを置く

食事中に使用しない物は、いったん別の場所へ移します。

例えば、次のような物です。

  • 新聞や雑誌
  • スマートフォン
  • テレビのリモコン
  • 薬袋
  • 使用しない調味料
  • 空になった容器
  • 広告や郵便物

ただし、本人が安心する物まで一律に取り除く必要はありません。

普段使っている湯飲みや、本人が好む小物などが落ち着きにつながる場合もあります。何を片付けるかは、食事中の様子を見ながら判断します。

料理を一度に並べすぎない

お皿が多いと、どれから食べればよいか迷ったり、食べ物を見つけにくくなったりする場合があります。

そのようなときは、

  • 数品ずつ提示する
  • 食べ終えた皿を片付ける
  • 主食と主菜を分かりやすく置く
  • 本人が好む料理から提示する

といった方法を試します。

ただし、少量ずつ出されることを不満に感じる方もいるため、本人の好みやこれまでの食習慣を尊重しましょう。

食器や食具を手の届く位置へ置く

箸、スプーン、コップ、よく食べる料理などは、本人が無理なく手を伸ばせる位置に置きます。

片麻痺や肩の痛みがある場合は、使いやすい側を確認します。

一方で、半側空間無視などがある方では、単純に使いやすい側だけへ置けばよいとは限りません。食器の見落としがある場合は、作業療法士などへ相談し、本人の状態に応じて配置を検討してください。

薬は食事と区別して置く

食卓上に薬が置かれていると、食事と薬のどちらへ注意を向ければよいか分かりにくくなる場合があります。

服薬のタイミングに合わせて提示し、食事中は必要のない薬袋や説明書を片付ける方法もあります。

ただし、服薬方法は医師や薬剤師の指示に従ってください。


椅子・車いすとテーブルの位置を整える

本人が安定して座れているか確認する

食事前に、次の点を確認します。

  • お尻が座面の奥まで入っているか
  • 身体が左右へ大きく傾いていないか
  • 足が床または足台へ安定して置かれているか
  • 肩や腕に余分な力が入っていないか
  • 痛みのある姿勢になっていないか
  • 食事の後半に姿勢が崩れていないか

「背筋を伸ばす」「必ず90度にする」といった一律の姿勢を求めるのではなく、本人が楽に食べられ、安全に飲み込める姿勢を検討します。

テーブルの高さを確認する

テーブルが高すぎると、肩を持ち上げたまま食べることになります。

低すぎると前かがみになり、身体を支える負担が増える場合があります。

本人が食器を操作するときに、

  • 肩が上がりすぎていないか
  • 身体を大きく前へ倒していないか
  • 肘や前腕を無理なく使えているか

を確認します。

数値だけで決めるのではなく、実際に食事をしている様子から微調整することが大切です。

テーブルまでの距離を確認する

身体とテーブルが離れすぎていると、食器へ手を伸ばすたびに前方へ身体を傾ける必要があります。

一方で、近すぎると腹部や車いすの肘掛けが当たり、動きにくくなることがあります。

本人が自然に食器へ手を伸ばせる距離を探しましょう。

車いすを使用している場合

車いすは移動のための用具であり、長時間の食事に適した座位が保てるとは限りません。

次の点を確認します。

  • 座面の高さと奥行き
  • クッションの状態
  • 足の位置
  • フットサポートの扱い
  • 肘掛けとテーブルの干渉
  • 身体のずれや傾き
  • テーブルへ近づけるか

食事中に足をフットサポートから下ろす方法が適する方もいますが、すべての方に共通する方法ではありません。身体機能や移乗方法によっては危険になる場合もあるため、自己判断で大きく変更せず、作業療法士・理学療法士・福祉用具専門相談員などへ相談してください。

適切なシーティングは、一人ひとりの身体状況や生活場面に合わせて検討する必要があります。

参考:厚生労働省「高齢者の適切なケアと シーティングに関する手引き
参考:厚生労働省「介護現場における適切なシーティングの実施に係る 事例及び研修に関する調査研究事業


食器・食具を見直す

食器と料理を見分けやすくする

食器と料理、テーブルの色が似ていると、食べ物の位置が分かりにくくなる場合があります。

例えば、

  • 白い料理を色のついた食器へ盛る
  • 食器とランチョンマットの色を変える
  • 柄の多い食器を避ける
  • 料理がどこにあるか分かりやすく盛り付ける

といった工夫があります。

ただし、特定の色がすべての方に有効とは限りません。視力、色の見え方、本人の好みを確認して選びましょう。

本人が使いやすい食具を選ぶ

箸を使いにくい場合は、スプーンやフォークを試します。

また、必要に応じて、

  • 柄が太い食具
  • 軽い食具
  • 滑りにくい食器
  • ふちの高い皿
  • すくいやすい皿
  • 持ち手のあるコップ

などを検討します。

自助具は便利ですが、本人が使い方を理解できるか、かえって操作が複雑にならないかも確認してください。

本人の慣れた物を大切にする

新しい食器へ変更したことで、食べ物や自分の食器として認識しにくくなる場合もあります。

安全性に問題がなければ、本人が長く使ってきた湯飲みや箸などを残すことも選択肢です。


テレビ・音・人の動きを調整する

テレビやラジオを一度止めて反応を見る

テレビやラジオへ何度も注意が向く場合は、一度止めて食事の進み方を確認します。

ただし、音楽を楽しみにしている、無音では不安になる、ニュースを見ながら食べることが長年の習慣になっている方もいます。

刺激をすべて取り除くのではなく、

  • 何に注意がそれているか
  • 何が安心につながっているか
  • 音量を下げるだけでよいか
  • 食事中だけ番組を変える方がよいか

を観察します。

認知症があり集中が難しい場合には、静かな食事環境を整えることがケアの選択肢として示されています。

参考:国立長寿医療研究センター「認知症・せん妄 サポートチームマニュアル

人の出入りが少ない席を検討する

廊下、出入口、配膳場所の近くでは、人が通るたびに注意が向くことがあります。

本人が落ち着けるのであれば、人の動きが視界へ入りにくい席を検討します。

ただし、本人の希望を無視して壁へ向けたり、孤立させたりすることは避けます。席の位置、食事メンバー、周囲の環境は、本人の反応に合わせて調整する必要があります。

会話を一律に減らさない

会話をすると食事の手が止まる方もいますが、一緒に食べる人との交流が食欲や安心につながる方もいます。

長い質問を続けるより、

  • 「おいしいですね」
  • 「次はこちらをどうぞ」
  • 「ゆっくりで大丈夫ですよ」

など、短く穏やかな声かけを使います。

食事を完璧に途切れなく進めることよりも、本人が安心して食事時間を過ごせることを大切にしましょう。


照明と見え方を確認する

料理と手元が見えているか

照明が暗い、本人の背後から光が入り手元に影ができる、食器が反射して見えにくいといった場合があります。

次の点を確認します。

  • 料理の形や色が分かるか
  • 手元に強い影ができていないか
  • 食器が光を反射していないか
  • まぶしさがないか
  • 眼鏡が合っているか
  • 眼鏡が汚れていないか

「昼白色が必ずよい」などと決めず、本人が見やすく、まぶしくない明るさへ調整します。

片側の料理を残す場合

毎回同じ側の料理だけ残す場合は、単なる好き嫌いではなく、視野や注意の問題が関係している可能性があります。

食器の位置を変えて反応を確認し、同じ傾向が続く場合は、医療・リハビリ専門職へ相談してください。


🌿 作業療法士からのポイント

食事が進まないとき、本人へ繰り返し声をかけることに意識が向きがちです。

しかし、本人が食べにくい姿勢になっていたり、食器が遠かったり、周囲の物が多すぎたりすると、声かけだけでは解決しにくいことがあります。

まずは、食事中の様子を観察してみましょう。

  • どの料理で手が止まるか
  • どこへ視線が向いているか
  • 食事の前半と後半で姿勢が変わるか
  • 食器へ無理なく手が届くか
  • どのような声かけで再開できるか
  • 一人と複数人では食べ方が変わるか

環境調整に一つの正解はありません。

完璧に集中して食べることを目指すのではなく、ご本人が食べやすく、安心して食事を続けられる環境を一緒に探すことが大切です。


食事環境チェックリスト

テーブル上

  • 食事に必要のない物が多く置かれていないか
  • 料理や食器を見つけやすいか
  • 一度に並べる皿が多すぎないか
  • 食具が手の届く位置にあるか
  • 薬袋や新聞が食事と混在していないか

姿勢・座席

  • 本人が楽に座れているか
  • 身体が左右へ大きく傾いていないか
  • 足が安定しているか
  • テーブルが高すぎたり低すぎたりしないか
  • 食器へ手を伸ばすたびに大きく前傾していないか

食器・食具

  • 料理と食器を見分けられているか
  • 箸やスプーンを使いにくくないか
  • コップを安全に持てるか
  • 食器が滑っていないか
  • 本人にとって慣れた道具か

周囲の環境

  • テレビやラジオへ何度も注意が向いていないか
  • 人の出入りが多い場所ではないか
  • 手元が暗くないか
  • まぶしさや反射がないか
  • 本人が落ち着ける雰囲気か

本人の状態

  • 食欲が落ちていないか
  • むせ込みがないか
  • 強い眠気がないか
  • 食事の後半に疲れていないか
  • 口や歯に痛みがないか
  • 急に食べ方が変わっていないか

一度にすべてを変更せず、気になる点を一つずつ調整し、本人の反応を確認しましょう。


専門職へ相談した方がよい目安

次のような様子がある場合は、環境調整だけで対応せず、専門職へ相談してください。

  • 食事中によくむせる
  • 食後に湿った声やガラガラした声になる
  • 食べ物を口の中へため込む
  • 食事量や水分量が急に減った
  • 体重が減っている
  • 発熱や肺炎を繰り返している
  • 姿勢が大きく崩れ、戻すことが難しい
  • 箸やスプーンの使い方が急に分からなくなった
  • 片側の料理だけを繰り返し残す
  • 強い眠気が続いている
  • 数日から短期間で食事の様子が変わった

個々に合った食事形態、姿勢、食事ペース、介助方法を検討することは、摂食嚥下支援において重要です。

相談先としては、主治医、歯科医師、看護師、言語聴覚士、作業療法士、理学療法士、管理栄養士、ケアマネジャーなどが考えられます。

参考:国立長寿医療研究センター「摂食嚥下障害に係る調査研究事業報告書


まとめ

高齢者が食事をしにくそうにしている場合は、本人の集中力や意欲だけを原因と考えず、食事環境を見直してみましょう。

確認したいポイントは次のとおりです。

  • テーブル上が整理されているか
  • 料理や食器を見分けやすいか
  • 食具が使いやすいか
  • 姿勢やテーブルの高さが合っているか
  • テレビや周囲の人の動きが負担になっていないか
  • 照明や見え方に問題がないか
  • 本人が安心できる食事環境になっているか

環境を整えれば必ず食事が進むわけではありません。

それでも、本人がどこで困っているのかを観察し、食べにくさを一つずつ減らすことは、安心して食事を続けるための大切な支援になります。


関連する記事


参考資料

・国立長寿医療研究センター「高齢者の食欲低下について
・認知症介護情報ネットワーク(DCnet)「食事場面における認知症ケアの考え方
・認知症介護情報ネットワーク(DCnet)「食事・入浴・排泄編
・厚生労働省「高齢者の適切なケアと シーティングに関する手引き
・厚生労働省「介護現場における適切なシーティングの実施に係る 事例及び研修に関する調査研究事業
・国立長寿医療研究センター「認知症・せん妄 サポートチームマニュアル
・国立長寿医療研究センター「摂食嚥下障害に係る調査研究事業報告書

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この記事を書いた人

現役の作業療法士。

病院・デイサービス・訪問看護で、高齢者を中心としたリハビリに携わっています。

日々の臨床で「現場ですぐに使える教材がもっとあれば」と感じた経験から、脳トレ教材や塗り絵、リハビリプリントを作成し、無料で公開しています。

このサイトでは、病院・介護施設・ご家庭などで活用できる教材と、リハビリや介護に役立つ情報を、現場での経験をもとに分かりやすく発信しています。

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