「食事を始めても、なかなか箸やスプーンが進まない」
「以前より食事に時間がかかり、途中で疲れてしまう」
「声をかけないと手が止まり、十分な量を食べられない」
病院や介護施設、ご家庭では、このような食事の困りごとがみられることがあります。
高齢者の食事が遅くなる原因は、注意力や意欲だけではありません。食欲、歯や口の状態、噛む・飲み込む機能、姿勢、食具の使いやすさ、認知機能、周囲の環境など、複数の要因が重なっている場合があります。
この記事では、現役の作業療法士が、食事が遅い・進まないときに確認したい7つのポイントと、対応の考え方を解説します。
大切なお知らせ
むせ込み、湿った声、口の中への食べ物のため込み、発熱、体重減少、食事量や水分量の急な低下などがある場合は、単に「食べるのが遅い」と判断せず、医療・介護の専門職へ相談してください。
「食べるのが遅い」だけで問題とは限らない
もともとゆっくり食事をする方もいます。本人が安全に必要量を食べられ、食事時間を楽しめているのであれば、周囲と比べて遅いことだけを問題にする必要はありません。
一方で、次のような変化がある場合は、背景に身体や生活上の問題がないか確認しましょう。
- 以前より明らかに食事時間が長くなった
- 食事の途中で疲れてしまう
- 食事量や水分量が減っている
- 体重が減っている
- むせや咳が増えた
- 食べ物を口の中へため込む
- 特定の料理だけ残すようになった
- 食具を使いにくそうにしている
- 声をかけないと食事を再開できない
- 数日から短期間で急に食べ方が変わった
高齢者の食欲低下には、嚥下機能、味やにおいの感じ方、活動量、胃腸機能、病気など、さまざまな要因が関係します。
参考:国立長寿医療研究センター「高齢者の食欲低下について」

高齢者の食事が遅い・進まない7つの原因
1.食欲や体調が低下している
食事が進まないときは、最初に「食べる意欲」だけでなく、体調を確認します。
高齢者では、次のような要因によって食欲が落ちる場合があります。
- 発熱や感染症
- 胃もたれ、便秘、腹部の不快感
- 脱水
- 痛み
- 睡眠不足
- 活動量の低下
- 気分の落ち込み
- 薬による眠気や吐き気、食欲低下
- 味やにおいの感じにくさ
高齢になると、飲み込む機能や消化機能、味覚・嗅覚などの変化が食欲へ影響することがあります。認知症治療薬を含む一部の薬にも、吐き気や食欲低下などの副作用があります。
対応のポイント
- 食事以外の時間も含めて体調を確認する
- 便通や水分摂取量を確認する
- 最近変更・追加された薬がないか確認する
- 本人の好きな料理や食べやすい量を検討する
- 食欲低下や体重減少が続く場合は主治医や管理栄養士へ相談する
2.歯や口、噛む・飲み込む機能に問題がある
歯や入れ歯が合わない、口の中が痛い、口が乾く、噛みにくい、飲み込みにくいといった問題があると、一口に時間がかかります。
口腔機能には、食べ物を取り込む、噛む、まとめる、飲み込むといった一連の働きがあります。これらが低下すると、食べられる物が限られ、栄養状態にも影響する可能性があります。
確認したい様子
- 硬い物を避けるようになった
- 何度も噛んでいるが飲み込めない
- 食べ物を口の中へため込む
- 口から食べ物がこぼれる
- 食事中や食後にむせる
- 食後に声が湿っている、ガラガラしている
- 歯や入れ歯、口の中の痛みを訴える
- 一口ごとに水分で流し込んでいる
むせ、湿った声、呼吸状態、口腔内残留などは、摂食嚥下機能を確認する際の重要な観察項目です。
参考:摂食嚥下リハビリテーション学会「摂食嚥下障害の評価2019」
対応のポイント
- 自己判断で食事形態やとろみを変更しない
- 歯や入れ歯の状態は歯科医師・歯科衛生士へ相談する
- むせや飲み込みにくさは医師・言語聴覚士などへ相談する
- 食事形態や栄養量は管理栄養士を含めて検討する
3.姿勢を保つことに疲れている
食事は、座っているだけの活動ではありません。
姿勢を保ちながら食器を見て、食具を持ち、料理へ手を伸ばし、口元まで運ぶ動作を繰り返します。
椅子や車いすが合っていない、足が安定しない、身体が傾いている、テーブルが高すぎるといった状態では、食事の後半になるほど疲れやすくなります。
確認したい様子
- 食事の後半に身体が傾く
- 前へずり落ちる
- 片肘をついて身体を支える
- 肩を持ち上げながら食べている
- 食器へ手を伸ばすたびに大きく前かがみになる
- 食事の途中で目を閉じる、休む
- 車いすとテーブルが干渉している
厚生労働省の資料でも、摂食嚥下機能への支援には、食事姿勢や食具などの環境面を個別に整える視点が示されています。
参考:厚生労働省「口腔機能向上マニュアル~高齢者が一生おいしく、楽しく、 安全な食生活を営むために~」
対応のポイント
- 足が床または足台へ安定しているか確認する
- 身体の傾きやずれを確認する
- テーブルの高さと距離を見直す
- 食事の前半と後半で姿勢が変わるか観察する
- 姿勢調整が難しい場合は作業療法士・理学療法士などへ相談する
詳しい調整方法は、以下の記事で解説しています。
4.食器や食具を操作しにくい
握力や手指の動きが低下している、麻痺や痛みがある、手が震えるといった場合には、食具を持って料理を口まで運ぶ動作に時間がかかります。
また、食器が滑る、皿の縁が低くてすくえない、コップが重いなど、道具との組み合わせが影響していることもあります。
確認したい様子
- 箸から食べ物を何度も落とす
- スプーンを握りにくそうにしている
- 皿が動いて料理をすくえない
- コップを両手でも持ちにくい
- 肩や手首に痛みがある
- 料理を口元まで運ぶ間にこぼれる
- 食具を途中で持ち替える
対応のポイント
- 箸にこだわらず、スプーンやフォークも検討する
- 食器の滑りやすさを確認する
- 皿の形や縁の高さを見直す
- 食器やコップの重さを確認する
- 本人が慣れている食器も大切にする
- 自助具は本人の身体機能と理解力に合わせて選ぶ
すべての方に同じ介護食器が適するわけではありません。道具を変更するときは、本人が実際に使う様子を確認しましょう。
5.料理の量・形・好みが本人に合っていない
食事量が多すぎると、食べ始める前から負担を感じることがあります。
また、噛みにくい大きさ、見慣れない料理、好みに合わない味付けなどが、食事の進みに影響している場合もあります。
確認したい様子
- 好きな料理だけは早く食べる
- 硬い物やパサつく物だけ残す
- 一度に多く盛り付けると手が止まる
- 同じ料理でも切り方によって食べ方が変わる
- 食事の最初から「多い」と話す
- 冷めると食べなくなる
対応のポイント
- 本人の好みやこれまでの食習慣を確認する
- 一度に出す量を調整する
- 少量でも栄養を取りやすい方法を管理栄養士と相談する
- 噛みやすさ・飲み込みやすさは専門職の評価をもとに調整する
- 見た目や温度も確認する
「高齢者だから薄味・柔らかい物」と一律に決めず、持病や嚥下機能を踏まえながら、本人の楽しみも大切にします。
6.注意や認知機能が食事へ影響している
テレビや会話、人の動きへ注意が向き、食事の手が止まることがあります。
認知症や高次脳機能障害などがある方では、食事の始め方が分からない、食器の使い方が分からない、次の動作へ移れないといった状態もみられます。
ただし、食事が遅いことだけで注意障害や認知症と判断することはできません。
確認したい様子
- テレビを見るたびに食事の手が止まる
- 会話後に食事へ戻れない
- 食器や料理を目の前にしても始められない
- 食具をどのように使うか迷う
- 一つの料理だけを食べ続ける
- 片側の料理を毎回残す
- 声をかけると食事を再開できる
対応のポイント
- 本人が何に注意を向けているか観察する
- テレビや周囲の刺激を調整して反応を見る
- 次の動作を短く具体的に伝える
- テーブル上の情報量を減らす
- 急かさず、本人が動き始めるまで待つ
- 片側の見落としや急な変化は専門職へ相談する
詳しい環境調整と声かけは、以下の記事をご覧ください。
7.周囲の支援方法が本人に合っていない
声かけが少なすぎると食事を再開できず、多すぎると会話へ注意が移ったり、急かされているように感じたりする場合があります。
また、支援者によって介助方法や声かけが異なると、本人が混乱することもあります。
よくある支援上の問題
- 一度に複数の指示を伝える
- 背後から繰り返し声をかける
- 「早く」「まだ?」と急かす
- 本人ができる部分まで介助する
- 毎回異なる方法で介助する
- 食事時間を短く設定しすぎる
- 会話をすべて禁止する
対応のポイント
- 本人の視界へ入ってから声をかける
- 次の動作を一つだけ伝える
- 声をかけたあとは少し待つ
- 本人ができる部分は続けてもらう
- 家族・スタッフ間で支援方法を共有する
- 食事時間に余裕を持たせる
- 会話を楽しむ時間とのバランスを考える
認知症ケアでは、本人のこれまでの食習慣、健康状態、人間関係、周囲の音や環境などにより、落ち着いて食べられる条件は異なるとされています。
参考:認知症介護情報ネットワーク(DCnet)「2 食事場面における認知症ケアの考え方」
参考:認知症介護情報ネットワーク(DCnet)「食事・入浴・排泄編」
🌿 作業療法士からのポイント
食事が遅いと、介護する側は「もう少し早く食べてほしい」「時間内に終わらせなければ」と焦ってしまうことがあります。
しかし、本人がゆっくり食べているのか、食べたくても身体や環境の問題で進まないのかによって、必要な対応は異なります。
まずは、食事全体を急いで変えるのではなく、次のように観察してみましょう。
- どの時間帯に食べにくそうか
- どの料理で手が止まるか
- 食事の前半と後半で変化があるか
- 何に注意が向いているか
- 姿勢や食具に負担がないか
- 声をかけると再開できるか
- むせや口腔内へのため込みがないか
完璧に早く食べることを目指すのではなく、ご本人に合った方法で、安全に必要な食事を続けられることが大切です。
最初に何から見直せばよい?
原因が分からないときは、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
1.安全性
- むせ
- 湿った声
- 呼吸状態
- 口腔内へのため込み
- 強い眠気
2.体調と食欲
- 発熱
- 痛み
- 便秘
- 脱水
- 薬の変更
- 体重の変化
3.姿勢・食具・環境
- 座り方
- テーブルの高さ
- 食具の使いやすさ
- テレビや人の動き
- 食器の配置
4.声かけと介助方法
- 声かけの量
- 指示の分かりやすさ
- 本人ができる部分
- 支援者間の対応の違い
一度にすべてを変更すると、どの工夫が役立ったのか分からなくなります。まずは安全を確認し、気になる点を一つずつ調整しましょう。
専門職へ相談した方がよい目安
次のような場合は、家庭や介護職だけで判断せず、専門職へ相談してください。
- 食事中によくむせる
- 食後に声が湿っている、ガラガラする
- 食べ物を口の中へため込む
- 食事中に呼吸が苦しそうになる
- 食事量や水分量が減っている
- 体重が減っている
- 発熱や肺炎を繰り返している
- 口や歯、入れ歯に痛みがある
- 姿勢が大きく崩れる
- 食具を急に使えなくなった
- 片側の料理だけを繰り返し残す
- 短期間で食べ方や意識状態が変わった
- 家族やスタッフだけでは安全を確保できない
相談先としては、主治医、歯科医師、看護師、言語聴覚士、作業療法士、理学療法士、管理栄養士、薬剤師、ケアマネジャーなどが考えられます。
低栄養、筋力低下、摂食嚥下機能の低下は相互に関係するため、食事だけでなく健康状態や生活全体を確認する必要があります。
参考:厚生労働省「高齢者の特性を踏まえた保健事業 ガイドライン第3版」
参考:厚生労働省「個別事項(その10)リハビリテーション・栄養・口腔」
食事が遅い・進まないときのチェックリスト
体調・食欲
- 食欲が低下していないか
- 発熱、痛み、便秘、眠気がないか
- 薬が最近変更されていないか
- 食事量や体重が減っていないか
口腔・嚥下
- むせがないか
- 食後に湿った声がないか
- 口の中へ食べ物をためていないか
- 歯や入れ歯、口に痛みがないか
- 噛みにくそうな料理がないか
姿勢・身体機能
- 楽に座れているか
- 食事の後半に姿勢が崩れないか
- 食器へ無理なく手が届くか
- 肩や手に痛みがないか
食器・料理
- 食具を使いやすいか
- 食器が滑っていないか
- 食事量が多すぎないか
- 本人の好みや食習慣に合っているか
認知機能・環境
- テレビや人の動きへ注意がそれていないか
- 食事の始め方や次の動作が分かっているか
- テーブル上に不要な物が多くないか
- 声をかけると再開できるか
支援方法
- 急かしていないか
- 一度に複数の指示をしていないか
- 本人ができる部分まで介助していないか
- 家族やスタッフの対応が統一されているか
まとめ
高齢者の食事が遅い・進まない原因は、一つとは限りません。
主に確認したいのは、次の7点です。
- 食欲や体調
- 歯・口腔・嚥下機能
- 姿勢と疲労
- 食器・食具の操作
- 料理の量・形・好み
- 注意・認知機能
- 周囲の環境と支援方法
「本人にもっと集中してもらう」「早く食べてもらう」ことから始めるのではなく、なぜ食事が進みにくいのかを観察し、原因に合った支援を考えることが重要です。
一度にすべてを変えず、安全性を優先しながら、ご本人が安心して食事を続けられる方法を一つずつ探していきましょう。
関連する記事


参考資料
・国立長寿医療研究センター「高齢者の食欲低下について」
・摂食嚥下リハビリテーション学会「摂食嚥下障害の評価2019」
・厚生労働省「口腔機能向上マニュアル~高齢者が一生おいしく、楽しく、 安全な食生活を営むために~」
・認知症介護情報ネットワーク(DCnet)「2 食事場面における認知症ケアの考え方」
・認知症介護情報ネットワーク(DCnet)「食事・入浴・排泄編」
・厚生労働省「高齢者の特性を踏まえた保健事業 ガイドライン第3版」
・厚生労働省「個別事項(その10)リハビリテーション・栄養・口腔」


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