高齢者の塗り絵はどんな楽しみ方ができる?作業療法士が感じた現場での様子と続ける工夫

当ページのリンクには広告が含まれています。

「高齢の家族に何か楽しめる活動を見つけてほしい」

「デイサービスや施設で、無理なく取り組める活動を探している」

「塗り絵をすすめても、本当に楽しんでもらえるのだろうか」

このように感じるご家族や介護職の方もいるのではないでしょうか。

塗り絵は、紙と画材があれば始めやすく、一人でも誰かと一緒でも楽しめる活動です。

一方で、塗り絵をすれば認知機能が改善する、認知症を予防できる、気分が必ず良くなる、といった効果を保証できるものではありません。

大切なのは、「塗り絵をすること」そのものよりも、その方がどのように楽しめるかです。

この記事では、病院・デイサービス・訪問看護などで高齢者のリハビリに携わってきた作業療法士の視点から、塗り絵を取り入れたときにみられることのある反応や、無理なく楽しむための工夫を紹介します。


目次

塗り絵は「訓練」ではなく、まず楽しめる活動の一つ

塗り絵というと、

「手先の訓練になる」

「脳トレになる」

といった目的を考える方もいるかもしれません。

しかし、私は最初から「訓練」として取り組んでもらう必要はないと考えています。

塗り絵には、

  • 好きな色を選ぶ
  • 季節の絵を見る
  • 昔の出来事を思い出す
  • 誰かと話す
  • 少しずつ作品を完成させる
  • 完成した作品を飾る

といった、さまざまな楽しみ方があります。

米国国立老化研究所(NIA)も、高齢期には本人が意味を感じたり楽しめたりする活動へ参加することが、健康的な生活を支える一つの要素になると紹介しています。絵画などの創作活動も、その選択肢の一つです。

参考:National Institute on Aging「Participating in Activities You Enjoy As You Age

「脳のためにやらなければならない活動」ではなく、本人が楽しめる選択肢の一つとして考える方が自然です。


作業療法士として感じる、塗り絵を取り入れやすい場面

ここからは研究結果ではなく、私自身が高齢者の支援に関わる中で感じてきた臨床上の経験として紹介します。

すべての方に同じ反応がみられるわけではありません。

1.「何をしようか」と迷っている時間

テレビを見たり、ぼんやり過ごしたりしている時間に、

「よかったら、この中から好きな絵を選んでみませんか?」

と塗り絵を提示すると、興味を示されることがあります。

重要なのは、

「塗り絵をしてください」

と決めるのではなく、

「花と風景ならどちらが好きですか?」

のように、本人が選べる形にすることです。

塗り絵を選ばなければ、それも本人の選択です。


2.季節の話をするとき

春なら桜、夏ならひまわり、秋なら紅葉、冬なら雪景色。

季節の塗り絵を見ながら、

「昔、お花見には行きましたか?」

「ひまわりは好きですか?」

「子どもの頃、雪はよく降りましたか?」

と話すと、会話のきっかけになる場合があります。

塗り絵を「完成させること」だけを目的にせず、絵を見ながら話すこと自体を楽しむ使い方もできます。


3.一人では会話が始まりにくいとき

「何か話してください」と言われても、会話のテーマがなければ話しにくいものです。

塗り絵が目の前にあると、

「この花は何色がいいかな」

「きれいな色ですね」

「この景色、どこかで見たことがありますか?」

と、自然な話題が生まれることがあります。

芸術活動は、認知症のある方を含む高齢者にとって、楽しみや社会的交流につながる活動として研究されています。ただし、研究されている介入には、専門職による芸術療法なども含まれており、一般的な塗り絵と同一ではありません。

参考:PudMed「The use of technology for arts-based activities in older adults living with mild cognitive impairment or dementia: A scoping review
参考:PubMed「Effects of an art-based intervention in older adults with dementia: a randomized controlled trial


4.完成した作品を誰かに見てもらうとき

塗り終わった作品を、

  • 家族に見せる
  • 職員に見せる
  • 部屋に飾る
  • 季節ごとに入れ替える

といった形で活用すると、完成後にも楽しみが続きます。

「上手ですね」と評価することだけが大切なのではありません。

例えば、

「この色を選んだんですね」

「ここまで完成しましたね」

「今日はこの部分を塗ったんですね」

と、本人が取り組んだ過程そのものへ目を向ける声かけも大切です。


「きれいに塗る」ことを目標にしすぎない

塗り絵をすすめるときに注意したいのが、

「線からはみ出さないように」

「もっときれいに塗りましょう」

「この花は赤ですよ」

と、周囲が正解を決めすぎてしまうことです。

色の選び方に正解はありません。

青い桜でも、紫色の葉っぱでも構いません。

本人が、

「この色が好き」

と感じて選んでいるのであれば、その選択を大切にしたいところです。

もちろん、本人自身が「きれいに仕上げたい」と希望している場合には、その希望に合わせて支援します。

本人が何を大切にしているかによって、支援方法も変わります。


最後まで完成させなくても大丈夫

一枚の塗り絵を、一度で完成させる必要はありません。

例えば、

今日は花だけ。

明日は葉っぱ。

次の日に背景。

というように、数日に分けても構いません。

体調や疲れやすさによっては、数分で終わる日もあります。

それでも、

「今日はここまでできた」

という経験を大切にできます。

高齢者向けの活動についてNIAも、本人に合った活動量や楽しめる範囲は人によって異なるため、無理なく始めることを勧めています。

参考:National Institute on Aging「Participating in Activities You Enjoy As You Age


塗り絵を楽しみやすくする7つの工夫

1.本人に絵柄を選んでもらう

こちらで一枚決めるのではなく、

  • 動物
  • 風景
  • 季節
  • 食べ物

などから選べるようにします。

選択肢が多すぎて迷う場合は、2~3枚に絞ります。


2.難しすぎない図柄を選ぶ

細かな模様が多い塗り絵を好む方もいれば、大きな面を塗る方が楽しみやすい方もいます。

「簡単な方が高齢者向け」と一律に決めるのではなく、

  • 視力
  • 手の動かしやすさ
  • 疲れやすさ
  • 本人の好み

を確認します。

認知症のある方の活動でも、本人の能力や興味に合わせて活動内容を調整することが重要とされています。

参考:National Institute on Aging「Adapting Activities for People With Alzheimer’s Disease


3.使いやすい画材を選ぶ

色鉛筆が使いやすい方もいれば、クレヨンや太めの色鉛筆の方が握りやすい方もいます。

本人が使いやすい物を選びましょう。

  • 握りやすい太さか
  • 力を入れなくても色が出るか
  • 色を見分けやすいか
  • 机上で転がりすぎないか

なども確認します。


4.姿勢を整える

塗り絵に集中していると、知らないうちに前かがみになっている場合があります。

  • 足が安定しているか
  • テーブルが高すぎないか
  • 紙が遠すぎないか
  • 肩や首に力が入りすぎていないか
  • 十分な明るさがあるか

を確認します。

疲れてきたら休憩しましょう。


5.一緒に取り組んでみる

家族や支援者が隣で別の部分を塗ったり、

「私は青にしようかな」

と話したりすると、活動を共有できます。

本人へずっと指示を出す必要はありません。

同じ時間を一緒に楽しむことが目的でもよいのです。


6.作品を飾る

本人が希望すれば、完成した作品を部屋や施設内へ飾ります。

芸術作品を展示したり、カードなど別の形に活用したりすることが、本人にとって作品への愛着や楽しみにつながった事例も紹介されています。

参考:Alzheimer’s Society「5 creative activities to help people living with dementia

ただし、本人が恥ずかしがる場合は無理に飾りません。


7.「続けること」を目標にしすぎない

毎日15分、週3回などと決める必要はありません。

やりたい日にやる。

途中でやめる。

しばらくやらない。

それでも構いません。

活動は、ノルマになった瞬間に楽しさが失われることがあります。


活動として期待できること

塗り絵では、

  • 色を選ぶ
  • 手を動かす
  • 完成まで取り組む
  • 絵柄について話す
  • 作品を誰かと共有する

といった活動ができます。

その結果として、

「楽しかった」

「またやりたい」

「家族との話題になった」

と感じる方がいても不思議ではありません。

創作活動については、高齢者の楽しみ、社会交流、心理的な健康などとの関連が研究されています。

参考:PudMed「The use of technology for arts-based activities in older adults living with mild cognitive impairment or dementia: A scoping review
参考:National Institute on Aging「Participating in Activities You Enjoy As You Age

塗り絵だけでは言い切れないこと

一方で、

  • 認知症を予防する
  • 認知機能を改善する
  • 不眠を改善する
  • うつを改善する
  • 孤独を解消する
  • 注意力を高める

といった効果を、一般的な塗り絵だけについて断定することはできません。

2026年の研究レビューでは、MCIの高齢者に対する視覚芸術療法について認知・心理面への効果が検討されていますが、対象となるのは治療目的で構造化され、専門家や訓練された支援者が実施する介入です。無料の塗り絵プリントを個人で使用することと同じものではありません。

くらしリハビリ館では、塗り絵を治療ではなく、生活の中で楽しめる活動の選択肢の一つとして紹介します。

参考:PubMed Central(PMC)「The effects of visual art therapy in older adults with mild cognitive impairment: a systematic review and meta-analysis


🌿 作業療法士からのポイント

塗り絵を取り入れるときに、私が大切にしたいのは、

「何色に塗ったか」や「どこまで完成したか」だけではありません。

例えば、

  • 自分で絵を選べた
  • 好きな色を決められた
  • 昔のことを話してくれた
  • 数分でも取り組めた
  • 完成した作品を誰かに見せた
  • 「またやってみたい」と話した

こうした一つひとつも、その方にとって大切な活動の一部です。

完璧な作品を完成させることを目指すのではなく、ご本人がその時間をどのように過ごしているかを大切にしてみてください。


こんなときは塗り絵にこだわらなくてもよい

塗り絵をすすめても、

「好きじゃない」

「子どもみたいで嫌だ」

「細かくて疲れる」

と言われることがあります。

その場合は無理に続ける必要はありません。

代わりに、

  • 写真を見る
  • 音楽を聴く
  • 園芸
  • 編み物
  • パズル
  • 新聞
  • 書道
  • 簡単な家事
  • 散歩
  • 家族との会話

など、本人が楽しめる活動を探します。

塗り絵は数ある選択肢の一つです。

本人がやりたいと思えることを優先しましょう。


無料で使えるぬりえ教材

くらしリハビリ館では、高齢者から子どもまで楽しめる無料ぬりえPDFを公開しています。

季節や好みに合わせて選べます。

AIぬりえ素材一覧|無料プリントで楽しむテーマ別ぬりえ


まとめ

塗り絵は、紙と画材があれば始めやすく、本人の好みや状態に合わせて楽しみ方を変えられる活動です。

大切なのは、

  • 本人が興味を持てる絵を選ぶ
  • 難易度を本人に合わせる
  • 無理に完成させない
  • 色の選び方を否定しない
  • 会話や交流のきっかけとしても使う
  • 本人が嫌なら別の活動を選ぶ

ことです。

「認知症予防のため」「脳トレのため」と無理に取り組むのではなく、

本人が「ちょっとやってみようかな」と思える活動として使う。

それが、くらしリハビリ館で塗り絵を提供するうえで、一番大切にしたい考え方です。


関連記事


参考資料

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

現役の作業療法士。

病院・デイサービス・訪問看護で、高齢者を中心としたリハビリに携わっています。

日々の臨床で「現場ですぐに使える教材がもっとあれば」と感じた経験から、脳トレ教材や塗り絵、リハビリプリントを作成し、無料で公開しています。

このサイトでは、病院・介護施設・ご家庭などで活用できる教材と、リハビリや介護に役立つ情報を、現場での経験をもとに分かりやすく発信しています。

コメント

コメントする

目次